2009年7月2日木曜日

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2009年6月4日木曜日

横山研究室    ■教員    ■学生       ■成果  ■技術・職業教育学研究室 研究報告 『技術教育学の探究』       ■技術・職業教育学研究室紀要『職業と技術の教育学』       ▼行事予定       □科学/技術  □職業  □遊び  □生涯  □教育  □スロイド(工作)教育       □国/地域  □民族  □歴史  □比較       □幼稚園/保育園  □小学校  □中学校  □高校  □専門学校  □大学       □社会  □政策/制度  □産業/企業  □経営/経済  □公的機関       ▼研究者  ▼学会  ▼公式統計  ▼法令

2009年6月3日水曜日

地域中小企業における人事考課の実態に関する調査研究

地域中小企業における人事考課の実態に関する調査研究
―特に情意項目の評価を中心にして―

A Research Study on the Actual Situation of Merit Rating in Small Corporations in the Local Area―Special Attention to Evaluation of Emotional Items―  

「東海学園大学研究紀要第14号(シリーズA)経営・経済研究編 2009年3月掲載」 
                  
三宅 章介    飯田  博
Akiyuki MIYAKE  Hiroshi IIDA
キーワード:人事考課、規律性、協調性、積極性、責任性、指導性、キャリア開発
Key words:merit rating, regularity, collaborative, activity, responsibility,directive,total evaluation、career development
〔要約〕
 若年従業員の離職率が高い。この理由には様々なことが考えられるが、しかし、職場でやりがいのある仕事を与え、その成果を管理監督者の恣意が入らないように客観的に評価し、その評価を基に処遇すること、また、評価の低い者には、その理由を明らかにし長期的に育成することが、今日、人材育成やキャリア開発上、何よりも求められていることではなかろうか。このような施策は、何も離職対策であることのみならず、経営管理上、最も基本的な施策といってもよい。
 この研究は、愛知県のM地域に所在する事業所においても若年従業員の離職率が高いということに鑑み、地域商工会議所と共同してその原因を明らかにし、働きがいのある職場を構築することを目的としたものであり、そのため、特に人事考課の情意項目に対する評価の現状を明らかにし、今後の人事考課の改善に資することを目的としたものである。また、人事考課を導入していない事業所には、導入の手掛かりを示すものである。
 本調査は、人事考課の情意項目について、規律性、協調性、積極性、責任性、指導性の5つを取り上げ、それに対する事業所(管理監督者)と従業員の評価、また、事業所の指導程度が、情意項目の向上にどの程度貢献しているかを明らかにすることにした。
その結果、事業所は特に積極性と責任性を評価していたこと、若年従業員は協調性を中心に評価をしていたこと、女性自身の評価は男性に比べて積極性や指導性の評価が低いが、協調性や規律性が高かったこと、さらに、事業所はその指導を行っているにもかかわらず、若年従業員はその指導の効果を事業所ほど評価していないことなどが明らかになった。
Abstract
In recent years, young employee turnover rate is very high. It is believed that the reason for this high young employee turnover is due the variety of lifestyle and work style choices available today. Even though efforts to offer a challenging career are being offered by companies, with employee performance evaluation systems and follow up programs for under performers, young employee turnover still remains a major subject for long term personnel training and career development.
Long term personnel training and career development remain management’s most important employee turnover prevention efforts.
 A region in Aichi Prefecture is said to be a location of very high young employee turnover. This research paper aims at clarifying the causes of young employee turnover in cooperation with the regional chamber of commerce and industry. Especially aimed clarifying the current state of employee evaluation and development to the effect a better performance rating, and to contribute to the improvement of performance rating in the future. Moreover, this research will attempt facilitation of introduction of employment performance rating in the future to companies that have not yet introduced employee performance rating systems.
 Our research covers five of the affective items of employee performance rating (rules, cooperation, aggressiveness, responsibility, and guidance). And, how the company (management supervisor) applies the five items of employee performance rating to employee evaluation, and the extent of guidance contributed to the improvement of the affect items used in employee performance rating systems.
The results of our research show that the company placed priority on aggressiveness and the responsibility in evaluations, where young employees placed priority of their performance on cooperation. The evaluation of female employees was shown to be low in comparison with the evaluation of male employees in aggressiveness and evaluation of the leadership. However, results of female employees showed to be high in performance items of cooperation and rule.Furthermore, results made it clear that companies did not evaluate the effects of the employee guidance younger age employees, even though the company performed workplace guidance.

1  問題の所在―人材育成の観点から
1.1 人事考課の必要性
 企業業績がよければ人材育成が叫ばれ、悪くなれば、時間的経済的余裕がないといった意見が強くなり、それは等閑視されがちになる。このことは、いつの時代でも同じようである。例えば戦前では、厳しい経済環境下にあっては、生産現場は労働集約的な生産活動に頼るのではなく、技能を機械に代替させるよう努力すべきであり、そのことによって生産性が向上し、人件費も節約できるとする議論が噴出したが、当時の商工省生産管理委員であった淡路園次郎氏は、産業の発展のためには、どのような時でも従業員の教養や資質の向上が必要不可欠であり、そのため教育が極めて重要だと指摘している[1]
このことは、時代や政治経済状況、経営の在り方、教育訓練必要性の理由など、今日とは極めて異なるけれども、人材育成は機械化の推進によってその必要性が少なくなる、という当時の風潮に対して淡路氏が警鐘を鳴らしたのであった。ヒトは機械にとって代わるものでもなく、経営の基本だというのである。
 さて、経営はよく言われるようにヒト、モノ、カネの3つの要素(これに情報を加えたり、方法などを含めて7つから成るなど様々な見解がある)からなるが、そのうち、モノとカネはそれ自体が価値を創造するのではなく、ヒトのみがそれらに目的的に働きかけることによって新しい財やサービスを創造するのである。そのため、ヒトは経営の主体であり、他の二つは客体を構成する。技能はヒトによって遂行され、機械によって代替されてしまうものでもなく、また、対人サービス業務はヒトによって行われるのであり、人材は、いつの時代においても経営の根幹をなすのである。
 ところで、このような人材を育成するということは、企業にとって当然のことであるけれども、そのヒトが職務を積極的に遂行する、あるいは常に創意工夫しながら職務に携わるということは、その職務を通して、言い換えれば職務自体が人材育成をもたらすということである。職務を通じて人材を育成するということであるから、いわゆるOJTが人材育成上もっとも効果的な方法であるといわれている根拠である。このことは人材育成の方法論であるが、その外、職務遂行のための動機づけを適切にすること、さらにここでの本論になることであるが、職務遂行を行った結果ないしその中途での評価をどうするかということである。そして、この両者は互いに密接に関連する。本稿は、そのことに焦点を当てている。
 すなわち、すでにハーズバーグは職務遂行によってもたらされる「達成」や「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」の5つの要因は、その者に精神的成長をもたらすものであるので、彼によれば、これらは動機づけの「満足要因」を形成するであり、したがって、これら5つの要因は、職務遂行における評価と密接に関係するのである[2]。例えば、「達成」は個人的な達成感とは別に上司や職場による評価によって、「承認」は職務遂行やその成果の評価によって存在を認められることであり、「仕事そのもの」は能力評価によって割り当られた職務であり、「責任」も割り当てられた職務の重要性や義務、「昇進」は職務遂行による業績によってもたらされた報酬に関係する。 このようなことから、これら全ての要因は「評価」に係るものといってもよい。この評価によって、現有能力のどの面が充足されており、どの面が不足しているかが明確になり、その上で職務遂行に必要な能力要件との比較により人材育成が出発することになる。教育訓練は、評価に始まり評価で終わるといっても差支えない。
 そのため、職務遂行のレベルを測定する評価システムが、経営者や管理監督者、あるいは熟練者の恣意によるものであっては、動機づけ要因が結果的に逆機能し、職務遂行に対するやりがい感の低下やその否定をすることになり、職務遂行者の組織からの離脱を促すことになりかねないのである。評価システムは、客観的かつ公平、公正なものでなければならないのである。このことが長期的な企業業績を担保することになるのであり、従業員は職務を通じて成長する。そのようなことから、我が国においては昭和30年代に「能力主義」の導入が始まり、科学的人事評価あるいは人事考課を多くの企業が積極的に導入するようになってきたのであり、そのシステムが今日多くの企業で導入されている資格等級制度である。
1.2 人事考課の運用上の問題点 
このような経緯によって、人事考課の重要さが概観出来るのである。そこで、次にこの人事考課制度はどのように運営されているのかという問題が生起する。人事考課で著名な楠田 丘・久保淳志氏によると、人事考課は「身につけている能力の高さはどうかという能力考課と、与えられた業務をどのように遂行したかという成績考課と、どのように努力したかという情意考課の三つである。この成績考課、情意考課、能力考課を区別せずに、ばく然と人事考課を行なっても、評価に直接たずさわる考課者は何をどのようにみればよいかがあいまいとなるから、結局、考課結果の客観性・信頼性は乏しいものとなる。人事考課の公正さを願うなら、ぜひこの三つをもって構成したい。」[3]と言っている。
さて、この三つの考課は、もとより、一般社員、監督層、管理者層、経営者層は各階層によって職務が異なるのであり、そのため、それぞれに占める考課要素は異なることになる。表1は、楠田・久保両氏の人事考課の評価要素を示したものである。これによると、若年者層であるジュニア・クラスからシニア・クラス、そしてマネジメント・クラスへと組織階層が上がるに連れて、職務内容がテクニカルな実際的なものから部門ないし総合的管理業務になる。そのため、ジュニア・クラスとシニア・クラスは「成績」考課と「情意」考課は同じであるが、シニア・クラスはジュニア・クラスの指導が含まれることになり、「能力」においてもこのクラスは指導力や判断能力が問われるようになる。さらにマネジメント・クラスにおいては、部門管理者が対象になるため、「成績」項目では部門別業務遂行度、「情意」項目では企業意識、「能力」項目においては決断力や対外的能力を問われるようになる。したがって、組織階層においては考課要素が自ずと異なってくる。
人事考課はこのような評価要素からなるのであるが、それらの実際の評価は、ジュニア・クラスからマネジメント・クラスになるに従いより一層精神的能力を必要となるのであるから、それはますます困難になる。特に情意考課は、その内容からともすれば、改善が困難な性格等に由来するものとして理解されがちであり、その評価は他の二者に比べて客観性、公正、公平性から問題があるとされる。そのため楠田・久保両氏もあえて次のような指摘をしている。長くなるが引用しておく。
「なお、特に注意を要するのは、情意考課の要素についての考え方である。情意考課は、通常、規律性・協調性・積極性、それに責任性の四つで把握されるが、これは決して性格
    
を問うものではないことに注意を払いたい。規律性といっても、それは過去の一定期間に日常の服務規律を守ろうとしていたかどうか、また守ったかどうかの事実を尋ねるものであって、人間本来の性格を規律性が高い人間なのかどうか、といった形で問うているのでは決してない。およそ、人事考課においては、そのような人間の性格を問うてはならない。人事考課において大事なことは、その対象範囲を職務に関連する行動にとどめること、もう一つは、努力すればなおすことができるものに限定しなければならないことである。人間の性格そのもののよしあしは評価することはできない。情意考課は、性格を問うものではなく、あくまでも過去の一定期間においての事実を問うものだということを、もう一度協調しておきたい。(中略)ただし性格は、能力開発や配置を考えていく上では重要だから、当然考慮されてよいものであることは、いうまでもないから、狭い意味での人事考課ではなく(中略)、全般的な人事情報システムの一環として、人事考課とは切り離して把握すべきであるといえる。これらを人事考課と一緒にすることは、人事考課に対する不信感を大きくする要因となる懸念をもつ点で、問題がある。」[4]としている。
要は、情意考課は性格考課であってはならないのであるが、職務によっては性格も考慮することが必要であるから、それは担当業務の観点から別途考慮するべきある、と言っているのである。例えば、教育訓練によって能力が向上するといっても、内向的な者は営業活動においてはその適応にやや無理があるのではないか、ということである。人間能力は、努力だけでは全てを補い得ないのである。
以上のように、人事考課は従業員の動機付けを促進させるのであり、このことを適正に行わなければならないということである。しかし、いま述べたように、人事考課における情意考課は他の二つの考課に比べて性格考課になりやすく、また、そうであるがゆえに考課対象者より、そのように理解されがちである。実際、本研究の共同研究者であるM商工会議所人づくり委員会の構成事業所においても、人事考課の運営と導入において、この点をどうするかという課題と問題を、日常的に抱えているということである。
本研究はこのようなことから、地域中小企業における人事考課の導入状況を、特に情意項目に絞り調査研究を行うことにしたものである。

2 調査の概要
 上のことを研究するために、次のような目的と方法を立て調査を実施することにした。
2.1 調査目的
 本調査の目的は、事業所(管理監督者)が情意項目をどのような評価をし、従業員はそれをどのように感じているか、ないし評価されているかを明らかにするものである。人間が作った制度も完全なものはあり得ない。そのため、事業所は評価者訓練などを行い、評価が客観的かつ公平、公正に実施されるよう努力しているのであるけれども、人事考課は人が人を評価するものであり、ハロー効果、中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向、対比誤差傾向、論理誤差傾向、直近効果などの評価誤差を一切払拭することは困難であるといわなければならないが[5]、可能な限り評価者の恣意を取り除き、事実をありのまま評価する、あるいはそうなるように努力することは可能である。また、その一点において、評価に誤差が生じても、その誤差を修正することも可能となるのである。そのとき、人事考課はより正確に実態を評価し、把握し、そこに評価者と被評価者との信頼関係も構築され、より良い制度に近づく。
そのような観点から、調査項目は評価者と被評価者の評価が相互に比較できるようにした。そのことによって、評価者と被評価者との評価が一致するかあるいは近似するか、が分かる。統計的には、評価者と被評価者の分布が一致することによって、小さな様々な誤差が混在しているとはいえ、情意考課は公正、公平に評価されていると考えられる。双方の評価に乖離があれば、何らかの評価誤差が存在すると考えられ、問題解決の手掛かりが得られることになる。
 以上から、本研究では次の5つの研究目的を掲げることにした。
① 事業所は人事考課をどの程度導入しているか。導入していない事業所は、従業員の評価をどのようにしているか。
② 人事考課を導入している、していないにかかわらず、事業所において情意項目をどの程度評価しているかを見ること。そのため、情意項目は、規律性、協調性、積極性、責任性、指導性の5つを設け、また、分析上、これらの統合体としての総合評価を加えた。
③ 被評価者としての従業員は、情意項目を自らどのように評価しているか。
④ 情意項目の指導については、事業所はそれをどの程度行い、また、被評価者としての従業員はそれをどのように受けているかを明らかにする。そのため、指導している事業所とそうでない事業所に分け、指導程度とその成果としての情意項目評価の関係を事業所と従業員の両者を比較検討する。
⑤ 以上の結果をもとに、今後の人事考課の在り方を考察する。

これらを研究するため、先に引用した楠田 丘・久保淳志氏の人事考課の考え方とその
情意項目に従うことにしたのであるが、M商工会議所人づくり委員会においては、職場における従業員の指導能力についても関心のあるところであり、このような事情から、本来はシニア・クラスの「能力」項目の要素である「指導力」を情意項目に「指導性」として便宜上加え、さらにこれら情意項目の総体としての「総合評価」を調査項目とすることにした。このことによって、「情意」にどの項目がより貢献しているかが分かる。なお、本研究では「指導力」を「指導性」とした。その理由は、「指導」はカッツのいうように対人関係能力でもあり、他者の向上を願うという安定的に他の4つの項目と関係する情意であると考えたからである。
 また、この調査は、次に示すように1996年から継続的に実施しているものであり[6]、そのため、毎年の景況感、従業員の過不足感、必要(不足している)している人材とはどのような職務担当者か、従業員に対する教育訓練、M商工会議所に対する要望なども質問項目を設けて同時に質問している。
2.2 調査の方法と時期
 本調査研究は、愛知県A市に所在するM商工会議所を中心とする経済団体や関係行政機関が、先に述べたとおり、1996年度より継続的に定期調査を行っているものの一環であり、そのため、本研究もその継続調査として行ったものである。本調査は事業所の経営者ないし管理監督者に対する調査(以下、「事業所調査票」という)と、当該事業所に勤務する従業員を対象に行う調査(以下、「従業員調査票」という)の二つから成り立っている。従業員調査票については、この4年間ほど、若年従業員の離職率の原因調査も行ってきた関係もあり、学校卒業後入社3年目の、将来の企業を担う若年従業員を対象としているものである。したがって、ほとんどの調査対象者が25歳までの者である。
以上のような経緯から、調査項目は楠田 丘・久保淳志氏の人事考課項目に依ることにしたのであり、具体的には表1に示すとおり、「ジュニア・クラス」の4つの評価項目に、本研究では先述したように「指導性」と「総合評価」を加えている。そのため、以下分析するように、情意項目の総合的評価は、正確には、情意項目全体の評価を示していないことが想定される。このことは、一重に研究上と実務上の都合であるので、あらかじめ付記しておく。
 調査票のうち、事業所調査票は1社につき一つ、従業員調査票はその事業所に5名分配布することとし、合計6つの調査票を同封して各事業所の人事担当者に郵送した。従業員調査票は、人事担当者より従業員の代表に手渡してもらい、その回答は従業員の代表よりM商工会議所にまとめて郵送していただいた。
事業所調査票は、同会議所にファックスで送付していただいた。郵送先の事業所数は、M公共職業安定所管内の社会保険加入事業所と、それと重複しない同会議所会員企業を合わせた600社である。有効回答事業所数は134社、回答率は22.3%であり、従業員の有効回答者数は361名であった。
 回答の尺度は、それぞれの情意項目を、「大変評価している」を5点、「まあまあ評価している」を4点、「普通」を3点、「余り評価していない」を2点、「評価していない」を1点の5段階としている。質問によっては、この「評価」が「指導」「受けて」などとなっているが、評価尺度は同じである。
 調査期間は2008年8月5日から20日までの15日間である。

3 調査結果の概要
3.1 事業所と従業員の属性
① 事業所の属性
表2は事業所を業種別と従業員数別に分け、それをクロス集計したものである。これによると業種別では、その他を含め7業種の中で製造業が41.8%を占めており、次いでサー
ビス業、建設業と続いており、最も少ないのは金融・保険・不動産業であり3.7%である。従業員数別では、30人以下17.9%、31人以上50人以下30.6%、100人以下20.9%、300人以下20.9%、301人以上9.7%とであり、50人以下の事業所は41.5%占める。
この結果、調査対象事業所は、業種別、従業員数別にバラツキがあり、統計的解釈に無理が生じる可能性もある。そのため、業種別では建設業16社11・9%、製造業56社41.8%、それ以外の62社46.3%を非製造業としてまとめて、3業種とした。従業員数別では、50人以下65社48.5%、51人以上100人以下28社20.9%、101人以上41社30.6%の3分類とした。
② 従業員の属性
 表3は従業員の属性を業種別、従業員数別にまとめたものである。回答者数361人のうち、業種別では製造業が41.8%(表2)も占めていたことを反映し従業員数も181人50.1%であり、過半数を超えている。「その他」の事業所は2番目に多く45社12.5%、次いで建設業37社10.2%となっている。ここでも製造業に従業員数が偏在しており、そのため業種別と同様に建設業16人11.9%、製造業181人41.8%、非製造業164人53.7%として3分類して分析することにした。従業員数別では、業種別に倣い、50人以下176人48.8%、51人以上100人以下68人18.8%、101人以上117人32.4%の3つに分けた。
従業員を性別に分けると男性216人60.0%、女性145人40.0%である。学歴別では高等学校卒業者(以下、「高卒」)142人39.3%、専門学校卒業者(以下、「専門卒)36人10.0%、高等専門学校卒業者(以下、「高専卒」)8人2.2%、短期大卒業者(以下、「短大卒」)30人8.3%、大学卒業・大学院修了(以下、「大卒・院修了」)145人40.2%である。
職種別では、管理職4人1.1%、営業職46人12.7%、事務職134人37.1%、技術職76人21.1%、技能職43人11.9%、サービス職22人6.1%、企画職1人0.8%、その他35人9.7%である。これらから、性別では男性が6割、学歴別では高卒と大卒・院修了者がほぼ40%ずつ占めている。職種別では営業職と事務職を合わせると約半数を占めている。
以下、この回答者によって分析していく。なお、これらの数字は、ある分析断面での回答者数であり、質問によっては若干増減することをあらかじめ断わっておく。


3.2 事業所における評価
3.2.1 分析に当たって
 調査対象事業所において、人事考課制度を有する事業所は83社62.9%、有しない事業所は48社36.4%、またそれ以外のこれから導入を図ろうとしている事業所は3社0.7%であった。
人事考課制度には必ず情意項目は含まれているのであるが、その制度を導入していない事業所であっても、何らかの評価制度が存在するものと考えられる。そこで人事制度を有しない事業所に対して複数回答によって、どのように従業員を評価しているかを質問したところ、「年功序列」12社、「管理者による人物評価」40社、「学歴」1社、「性別」0社、「成果だけの評価」10社、「資格」13社であった。したがって、人事考課制度を有しない事業所は、年功序列や管理者の人物評価が多くなっていることが分かる。このことは、冒頭にあるように、評価において様々な誤差が混入するものと考えられる。
 以下の分析は、人事考課制度の有無にかかわらず、事業所が情意項目をどのように評価しているか、またその指導をどの程度行っているかを検討するものである。
3.2.2 情意項目の評価
①業種別にみた評価
 まず、事業所が情意項目についてどの程度、評価しているかを業種別にみることにした。
そこで、表4の左側にあるように、平均値を求めて全体の評価傾向をみることにした。それによると、いずれも3以上の評価が与えられているが、中でも非製造業においては、責任性は4.91であり、この値はこの表中で最も高く、建設業と製造業もそれぞれ4.17、4.02であり、他の項目に比べて高い。事業所は、責任性に高い評価を与えている。
6つの項目において、非製造業は指導性のみが他の2業種に比べて低くなっているが、その他の項目では全て最も高い。製造業は建設業に比べて、規律性、協調性、積極性、総合評価が高く、責任性と指導性は建設業が高くなっている。業種ごとに「総合評価を除いた」(以下、同じ)平均値の最も高い項目と低い項目を挙げれば、建設業は責任性と規律性・協調性、製造業は責任性と規律性、非製造業は責任性と指導性である。
次に、3つの業種間の母平均の差を検定するために一元配置分散分析を行い、その上で有意な項目について多重比較を行うことにした。その結果、3つの業種間において6つの情意項目には有意な項目は見つからなかった。また、多重比較の前に必ずしも分散分析を実施する必要性もないので[7]、同時に多重比較を試みたが、有意な項目は発見できなかった。
②従業員数別にみた評価
 表4の右にあるように、まず、平均値によって全体の傾向をみることにする。それによると、業種別と同様に責任性はどの従業員数別においても4以上であり、特に101人以上は4.90となっている。業種別では、非製造業が他の業種より6つの項目のうち5つまでが一番高かったが、従業員数別では、50人以下では規律性と指導性が、100人以下では積極性が、101人以上では協調性と責任性が高い。
   したがって、業種別でみたように、非製造業は全てにおいて高い評価をしていたのであ
るが、従業員数別では、規模によって評価程度にバラツキがある。規模ごとに平均値の最も高い項目と低い項目を挙げれば、50人以下は責任性と指導性であり、100人以下と101人以上は責任性と規律性である。
次に、従業員数別に情意項目の母平均に差があるかどうかをみることにした。そのため、業種別と同様に一元配置分散分析を行ったが、有意な項目はなく、多重比較によっても有意な項目は存在しなかった。
③ 情意項目間の関係
 次に、各項目の評価は、他の項目の評価とどのような関係があるのかをみておく。そのため、各項目の評価は5段階であるので、分析上、その間隔は等間隔すなわち間隔尺度と仮定してPearsonの順位相関係数を求めることにする。また相関係数の値の判断であるが、実務的には「分析者が経験的な判断から決めることになる」[8]ので、論者によっても判断基準が異なる。しかし、相関係数においては「特にrが0.5未満の場合、非常に弱い相関なので『関連がない』と判断することが多い」[9]ようであり、また、「『関連がない』の相関係数の境目は、独立係数と相関比が0.25未満なのに対し、単相関係数は0.5未満である」[10]という指摘があることを採用して、本研究では、相関係数rが0.9以上は「非常に強い相関」、0.7以上0.9未満は「やや強い相関」、0.5以上0.7未満は「やや弱い相関」、0.5未満は「非常に弱い相関」があり、0.5以上をまとめて「関連がある」とし、0.5未満を「関連がない」という基準を基にして、以下の相関係数を理解していく[11]。つまり、相関係数が0.5以上の項目間のみを取り上げる。
 「非常に強い相関」をもつ項目間はなく、「やや強い相関」は総合評価と積極性(0.700。表頭から表側。以下、同じ)だけであり、「やや弱い相関」は総合評価と指導性(0.693)、協調性と規律性(0.668)、積極性と協調性(0.634)、指導性と積極性(0.624)、総合評価と協調性(0.571)、総合評価と規律性(0.552)、積極性と規律性(0.506)の8つの組み合わせである。これらの相関係数を検定すると、いずれも0.1%で有意であった。なお、特徴的なことは、責任性と相関をもつ情意項目はなく、総合評価との組み合わせだけであった。
参考までにデータをノンパラメトリックと考え、Kendallの順位相関係数を求めると、「非常に強い相関」をもつ組み合わせはなく、「やや強い相関」は協調性と規律性(0.715)の一つだけであり、責任性と協調性、指導力と規律性、指導力と協調性の3つの組み合わせは「非常に弱い相関」程度であった。残りの11個(同じ組み合わせを除き15個中)は「やや弱い相関」をもっていた。総合評価との関係においては、全ての組み合わせにおいて0.1%で有意であり、「やや弱い相関」があった。
3.3.3 情意項目の指導の評価
① 業種別にみた評価
 冒頭に述べたように、情意項目は性格評価に関連しやすくその評価は困難である。しかし、例えば、遅刻が多ければその理由を聞き、指導によってその改善は可能になる。また、そのような指導は、若年者の職業生活にとって欠くことのできないものである。
 そのため、情意項目の指導を、表6によって全体の傾向を平均値でみることにした。業種別では、4以上の項目はなかった。それぞれの項目において最も高い評価をしている業種をみると、表4の業種別の評価と同様に非製造業が6つの項目の全てにおいて高くなっていた。また、責任性と指導性においても、2番目と3番目はそれぞれ建設業、非製造業であり、このことは表4の業種別の評価結果と同じである。業種ごとに平均値の最も高い項目と低い項目を挙げれば、建設業は責任性と規律性・協調性・積極性・指導性であるが、製造業と非製造業は共に責任性と規律性である。
情意項目の指導程度を業種別に検討することにし、一元配置分散分析を行ったが、有意な項目はなく、多重比較によっても有意な項目は見られなかった。
②従業員数別にみた評価
 次に、従業員数別に事業所の指導程度をみたのが、表6の右側である。全体ではどの項目も4以上のものはなく、最も高い項目でも101人以上の責任性であり3.89である。このことは、業種別と同様である。また、6つの項目のうち、最も高い平均値を従業員数別にみると、101人以上が規律性、協調性、積極性、指導性の4つを占め、100人以下では責任性と総合評価の2つであった。50人以下では、最も高い項目はなく、どの項目も最も低い平均値であった。さらに、規模が小さくなるほど、指導性の評価が低くなっている。規模ごとに平均値の最も高い項目と低い項目を掲げると、50人以下は責任性と指導性、100人以下は責任性と協調性、101人以上は協調性と指導性である。
情意項目の評価について、3つの規模間に母平均に差があるかどうかをみるために、一元配置分散分析を行ったが、有意な項目は存在しなかった。Tamhaneの方法によって多重比較を行うと、協調性が100人以下と101人以上の間で5%の有意水準で有意であった(また、Tukeyの方法でも同様に5%で有意であった。以下、Tamhaneの方法だけで行う)。この場合の平均値は、それぞれ101人以上=3.83>50人以下=3.56>100人以下=3.36である(以下、一元配置分散分析が有意でない項目についての多重比較の計算は割愛する)。
 以上のことから、5つの情意項目の指導の評価は非製造業が高く、従業員数別では、そのような傾向は見られなかった。情意項目の評価(表4)は責任性が高かったが、事業所の指導も責任性が高くなっていた。
    
③指導の程度による情意項目の評価
事業所は従業員の情意項目の向上に対して指導しているが、その程度は情意項目の評価
にどの程度影響しているかをみておく。そのため、日常的な上司の指導について項目ごとに「5.大変指導している」と「4.まあまあ指導している」を合わせて「指導している」事業所、「2.指導を余りしていない」と「1.指導していない」を合わせて「指導していない」事業所として、指導程度が情意項目の評価にどのように影響を与えているかを検討する。なお、項目ごとに「指導していない」事業所は少なく8から9社、「指導している」事業所は55社から76社まであった。
 まず、「指導している」事業所は責任性が最も高く4.91であり、最も低い項目は規律性であり4.25であるが、どの項目も4以上である。「指導していない」事業所で最も高い平均値は責任性であり3.63、最も低い項目は規律性と総合評価であり3.00である。両者間の平均値で最も大きい差は積極性の1.28である。
 次に、二つの事業所の母平均に差があるかどうかを検定する。「等分散のためのLeveneの検定」を行うと積極性と指導性の二つが有意であった。母平均の差の検定を行うと、責任性以外は全て有意であった。「指導している」事業所と「指導していない」事業所では、情意項目の評価に差があるといえる。責任性は、両者間の平均値は異なるが、統計的にはその差があるとはいえない。
④ 情意項目間の指導の相関関係
 事業所の情意項目の指導と、その項目間にどのような相関関係があるかを見たのが表8
である。先と同様な相関係数の判断基準に従うと、「非常に強い相関」をもつものはなく、「やや強い相関」をもつものは総合評価と指導性(0.795)、総合評価と責任性(0.760)、総合評価と積極性(0.745)、協調性と規律性(0.705)の4つの組み合わせであり、「やや弱い相関」があるのは、指導性と責任性(0.658)、総合評価と規律性(0.638)、総合評価と協調性(0.618)、指導性と積極性(0.598)、積極性と規律性(0.574)、責任性と規律性(0.555)の6つ組み合わせであった。いずれの組み合わせも0.1%で有意な差があった。
Kendallの順位相関係数を求めると、前者と異なり、責任性と規律性(0.521)は「やや弱い相関」があり、その外はほぼ同様な傾向であった。また、全ての組み合わせにおいて0.1%で有意であった。

⑤ 情意項目の指導程度とその評価の相関関係
 事業所の情意項目の指導と、その成果としての情意項目の評価の関係をみることによって指導の成果も評価できる。そこで、この両者間の相関係数を求めることにした。
表9は表頭と表側に6項目からなる相関行列であるが、上司の情意項目の指導が情意項目の評価にどのように影響を及ぼしているかをみるものであるから、表頭の左上から右下の対角線上の上半分の相関係数のみを取り上げることにする。「非常に強い相関」と「やや強い相関」をもつ組み合わせはなく、「やや弱い相関」をもつものは積極性と積極性(0.660)、総合評価と総合評価(0.609)、規律性と規律性(0.550)、協調性と協調性(0.509)の4つの組み合わせである。特定の指導項目と、その対象となった情意項目との間の相関が高くなっている。例えば、規律性をしっかり指導すれば、規律性も向上するということである。
Kendallの順位相関係数を求めると、規律性と規律性(0.481)と協調性と協調性(0.467)の二つの相関は0.5を下回ったが、その他は同様な相関関係があった。 

3.3 従業員自身の評価
 次に、情意項目を若年従業員はどのように評価しているかを分析する。
3.3.1 情意項目の自己評価
 人事考課は、公開されているといないとにかかわらず事業所(管理監督者)が行うものである。公開人事考課は、事業所評価と従業員の自己評価の突き合わせが可能であり、乖離がある場合、その理由が聞け、また正せることも可能である。非公開人事考課は、事業所評価がそのまま従業員評価になる。非公開は、従業員の不審感がそのまま蓄積されるが、公開の場合は疑問点を問うことができても、最終的判断は、いずれにおいても評価者にある。人事考課を公開するかしないかは、大きな問題でもあるのである。
 以上の点に鑑み、本調査では事業所評価と従業員評価が比較できるようにした。まず、若年従業員自身の評価を分析する。
① 業種別にみた評価
表10に示すように、平均値によって全体の傾向をみておく。全体では全ての項目において4以上はなく、さらにどの業種も指導性は3以下であり、最も低いものは製造業の2.55である。このような低い自己評価は、回答者が学校卒業後3年以内の若い従業員であったと考えられる。
業種別に平均点が最も高い項目をみると、非製造業は、協調性、積極性、責任性と総合評価の4つを占めており、製造業は規律性、建設業は指導性だけである。この傾向は、表4における事業所の業種別にみた情意評価と同じ結果である。業種ごとに平均値の最も高い項目と低い項目は、建設業・製造業・非製造業とも協調性と指導性であり、責任性は全ての業種で3番目である。
業種間に従業員の母平均に差があるかどうかを検定するために一元配置分散分析を行ったが有意な項目はなかった。また、多重比較も試みたが、有意な組み合わせは存在しなかった。
② 従業員数別にみた評価
 表10によって、従業員別に全体を概観すると、業種別と同様にどの規模も4以上のものはなく、また指導性ではいずれの規模においても3以下であった。50人以下では協調性、積極性、責任性、指導性、総合評価の5つの項目が他の規模より高くなっている。残りの規律性は、101人以上が高くなっており、100人以下は一つもなかった。
表6では、101人以上の規模が、4項目も高かったが、従業員の自己評価は逆の傾向を示している。規模別に最も高い平均値の項目と低い項目は、50人以下と100人以下は協調性と指導性であり、101人以上は規律性と指導性である。責任性は50人以下の規模は2番目、他の規模は3番目であった。
   
次に、従業員数別に一元配置分散分析を行うと積極性と指導性の2つの項目で有意で     
   
あった。次に、この二つの項目について、表12のようにTamhaneによる多重比較を行った。積極性では50人以下と101人以上の間で、指導性では51人以下と100人以下、50人以下と101人以上の間で有意な差があった。
これらの組み合わせの平均値を掲げると、
積極性では、50人以下:3.45>100人以下:3.36>101人以上:3.18
指導性では、50人以下:2.86>100人以下:2.54>101人以上:2.36
の順序になる。
③  性別による評価
自己評価に男女の差があるのかどうかを検討するために、母平均値の差の検定を行うこ
とにした。表13よると、男性は積極性と指導性の二つがが高く、残りの4項目は全て女性が高くなっている。また、6つの項目のうち、女性の協調性が最も高く3.78であるが、指導性では男女とも3以下であり、特に女性は2.44であり、この平均値はこの表で最も低い。平均値の最も高い項目と低い項目は、男性も女性も協調性と指導性であった。
 次に、男女間の平均値の差の検定を行う。「等分散を仮定するLeveneの検定」では協調性だけが有意であった。そこで、二つの母平均の差の検定を行うと、協調性は有意な差はなく、指導性については、等分散を仮定した場合(しない場合も)、有意な差があった。平均値は、男性は2.72、女性は2.44、その差は0.28である。
④ 学歴別にみた自己評価
 表14は、学歴別にみた自己評価の平均値である。全体では高専卒の責任性と協調性がそれぞれ4.50と4.00であり、この両者だけが4以上であった。そこで高専卒の平均点をみると、協調性、積極性、指導性、総合評価の4つが最も高くなっていた。大卒・院修了は一番高い評価はなく、責任性は4番目、他の5つの項目が3番目であった。高校卒は、規律性、積極性、総合評価が4番目、協調性は5番目であったが、責任性と指導性の二つは2番目に高い評価であった。
平均値の最も高い項目と低い項目をは、高卒と専門卒は協調性と指導性、高専卒は責任性と指導性、短大卒は規律性と指導性、大学卒・院修了は規律性・協調性と指導性である。責任性は、高卒と専門卒は2番目、高専卒は4番目、短大卒と大学・院修了は3番目である。
次に、学歴別に母平均に差があるかどうかを検定するために一元配置分散分析を行うと、責任性と指導性の二つの項目が5%で有意であった。この両者についてTamhaneによる多重比較を行ったが、いずれも有意な組み合わせはみられなかった。 
⑤ 自己評価間の相関関係
情意項目同士には、どのような相関関係があるのかを表15によってみておく。「非常に強い相関」と「やや強い相関」の組み合わせはなく、「やや弱い相関」は総合評価と責任性(0.642)、総合評価と積極性(0.602)、責任性と積極性(0.526)の三つの組み合わせである。残りの項目の組み合わせは、相関はなかった。指導性と協調性の組み合わせは5%で有意であったが、他の項目間は0.1%で有意であった。
責任性と積極性、総合評価と協調性は「やや弱い相関」があったが、Kendallの順位相関係数を求めると、この両者には相関はなく、残りの組み合わせはいずれもPearsonと同様であった。項目間の全ての組み合わせは、0.1%で有意であった。
3.3.2 事業所の指導に対する評価
 これまでと同様な手順で、若年従業員は事業所の情意項目の指導を、どの程度受けているかを分析する。
① 業種別にみた評価
表16の左によってみておく。総合評価では建設業が3.49であり最も高く、次いで非製造業、製造業となっている。建設業は、協調性以外は全ての項目において最も高くなっている。
最も高い平均値と最も低い評価は、建設業、製造業、非製造業とも責任性と指導性となっていた。従業員は、仕事の責任性を指導されていることが分かる。若年従業員の情意項目の自己評価は、業種別、従業員規模別とも協調性であったが、受けている指導の評価は責任性が高かった。
 次に、業種間に評価について母平均に差があるかどうかをみるために一元配置分散分析を行ったが、有意な項目は見られなかった。Tamhaneの多重比較によっても有意な項目は見られなかった。
② 従業員数別にみた評価
以上を従業員数別にみると、表16の右のようになる。総合評価では、100人以下が3.45で最も平均値が高い。次いで50人以下、101人以上と続いている。業種ごとに、最も平均値が高い項目を挙げると、50人以下と101人以上では0個であり、100人以下では規律性、協調性、積極性、責任性、指導性、総合評価の全ての項目である。
 規模ごとに平均値の最も高い項目と低い項目を挙げると、50人以下では責任性と指導性、100人以下では責任性と協調性・指導性、101人以上では責任性と指導性であり、業種別とも符合する。
 従業員規模間の母平均に差があるかどうかを検討するために、一元配置分散分析を行ったが有意な項目はなかった。また、Tamhaneの多重比較を行ったが、有意項目はみられなかった。
③  性別にみた評価
男性と女性によって事業所の指導の評価について差があるかどうかをみるために、母平均の差の検定を行った。表17によって、全体の傾向を平均値によってみておく。
これによると、6つの項目において全て男性が高くなっている。男性で一番高い項目は責任性であり、最も低い項目は指導性であった。女性も同様に責任性と指導性であった。この傾向は、業種別、従業員別の従業員評価と一致している。
平均値の差の検定を行うために「等分散性のためのLeveneの検定」を行うと、有意な項目はなかった。つまり等分散性を仮定できる。次に二つの項目間の母平均の差の検定を行うと、積極性は1%、指導性と総合評価は5%で有意であった。性別によって、母平均に差があるといえる。
 
④ 学歴別にみた評価
学歴別に、情意項目の指導をどの程度受けているかの評価では、総合評価では高専卒は
最も高く、次いで高卒、専門卒、大卒・院修了、短大卒の順となっている。項目ごとに高いものを挙げると、規律性は高卒、協調性は高卒、積極性と責任性と指導性は高専卒である。
学歴ごとに高いものを挙げると、規律性と協調性とでは高卒、積極性・責任性・指導性・総合評価の4つは高専卒である。学歴ごとに最も平均値が高いものと低いものを挙げると、高卒、専門卒、短大卒、大学卒・院修了の5つは責任 性と指導性、高専卒は責任性と規律性である。どの学歴も責任性の評価が高い。
 次に、学歴間に母平均の差があるかどうかをみるために一元配置分散分析を行ったが、有意な項目はなかった。また、Tamhaneの多重比較を行ったが有意な項目は見られなかった。
⑤ 事業所の指導の程度による自己評価
多くの事業所は、従業員の情意項目の指導をしているが、「3.3.3③指導の程度による情
意項目の評価」で分析したことと同様に、その程度を従業員はどのように評価しており、その評価と情意項目の自己評価にどのように関係しているのかを検討する。
そのため、日常的な上司の指導について項目ごとに「5.大変受けている」と「4.まあまあ受けている」を合わせて指導を「受けている」と感じている者、「2.余り受けていない」と「1.受けていない」を合わせて指導を「受けていない」と感じている者、の2つに分類して検討する。
 表19によると、指導を「受けている」と感じている者は協調性が最も高く3.88であり、最も低い項目は指導性であり2.96である。(事業所の)「3.3.3③指導の程度による情意項目の評価」では、どの項目も4以上であったが、ここではいずれも4以下である。また、事業所の場合、責任性が最も高かったが、従業員の場合は協調性であった。
指導を「受けていない」と感じている者で最も高い評価は責任性であり3.56、最も低い評価は指導性の2.20である。指導を「受けている」と感じている者と「受けていない」と感じている者を比較すると、規律性だけが前者が高く残りの5項目は後者が高い。
 この両者に母平均に差があるかどうかを検定するため、「等分散性のための検定」を行うと協調性、積極性、責任性の3項目に有意な差があった。次に母平均の検定を行うと、協調性と積極性、指導性の3つに有意な差があった。
⑤ 情意項目間の指導の相関関係
事業所の情意項目の指導を受け、その成果としての情意項目をどのように評価しているかの関係をみておく。
表20によると、「非常に強い相関」をもつ項目の組み合わせはなく、「やや強い相関がある」項目の組み合わせは、総合評価と積極性(0.846)、総合評価と責任性(0.797)、総合評価と規律性(0.778)、協調性と規律性(0.750)、責任性と積極性(0.722)、積極性と協調性(0.720)、積極性と規律性(0.689)、総合評価と指導性(0.683)、責任性と規律性(0.681)、責任性と協調性(0.653)指導性と責任性(0.561)、指導性と積極性(0.545)、指導性と協調性(0.541)の13個である。これらは0.1%で有意であった。
Pearsonの相関係数においては、指導性と協調性、指導性と積極性は「やや強い相関」があったが、 Kendallの順位相関係数を求めると、これらの間に相関はなかった。また、これらは、全て0.1%で有意であった。

⑥ 情意項目の指導を受けた程度とその評価
上司から情意項目の指導を受け、その結果、その程度、自らの情意項目を評価しているかの関係を見るために、表頭の6項目の左上から右下の対角線上の上半分の相関係数を取り上げることにする。
表21に示すように、各項目間に「非常に強い相関」も「やや強い相関」も「やや弱い相関」も見出すことはできなかった。相関係数が最も高い組み合わせでも、指導性と指導性の0.328であった。
また、Kendallの順位相関係数を求めると、最も高い相関は協調性と協調性(0.149)であった。
このことは考察で検討するが、若年従業員が事業所より指導を受けた程度と、その成果としての情意項目の評価との相関は、事業所の場合と極めて異なっている。
 
3.4 事業所と若年従業員の評価の比較
① 情意項目の比較
 これまでは事業所と従業員は情意項目をどのように評価しているかを、別々に分析してきた。ここでは、表22によって、その両者間に母平均の差があるかどうかを検討する。平均値の比較では、全ての項目において、従業員が高くなっている。中でも責任性は、事業所は4.44で最も高く、従業員のそれは3番目に大きい。一方、従業員は協調性が最も高く、事業所のそれは2番目である。
 次に母平均に差があるかどうかをみるために「等分散性のためのLeveneの検定」を行
うと、規律性と責任性の二つの項目で有意な差があった。これらは等分散ではないと仮定してよい。次に、母平均の検定を行うと、協調性を除いて5つの項目で有意な差があった。また、等分散を仮定できない場合も同様であった。
②情意項目の指導についての比較
 事業所の情意項目の指導評価と、従業員のその評価の平均値を比較したのが表23である。全体では、どの項目も事業所が高い評価をしている。中でも事業所は、責任性の指導に最も力を入れており、従業員自身も責任性の評価が最も高い。平均点が最も低いのは事業所では指導性、従業員も指導性である。
 次に、事業所と従業員の両者間に評価の差があるかどうかをみるために、母平均の差の検定を行った。「等分散性のためのLeveneの検定」を行うと、どの項目も有意な差はなかった。等分散を仮定する場合、二つの母平均の差の検定においては協調性と指導性が0.1%で、積極性と責任性、総合評価では5%で有意な差があった。

3.5 情意項目における総合評価に影響を与える項目
 総合評価は、5つの情意項目の統合体である。総合評価に対し、それに貢献する5つの情

意項目の関係を分析することにする。表24から27は、総合評価を従属変数とし、5つの項目を説明変数とした場合の標準偏回帰係数すなわちベータ係数を求めたものである。
3.5.1 事業所の評価
① 従業員に対する評価
 事業所の従業員評価に対する貢献は責任性が高く、次いで積極性、指導性、規律性、協調性の順である。 
全ての項目において、規律性は1%で、協調性は5%で、残りの三者はいずれも0.1%で有意であった。

② 情意項目の指導の評価
 情意項目に対する従業員指導において、総合評価に貢献している項目は、積極性、責任性、指導性、規律性、協調性の順である。指導に対する協調性の貢献は少なく、このことは上の従業員評価と同様な結果である。協調性は有意ではなかったが、残りの4項目は0.1%で有意であった。
3.5.2 従業員の評価
① 自己評価 
総合評価に貢献している従業員の自分自身の情意項目は、規律性、協調性・積極性・責任性(この3つは同じ値である)、指導性の順である。全ての項目が0.1%で有意であった。
 ② 事業所の指導に対する評価
 同様に、ベータ係数の大きい順に並べると、積極性、責任性、協調性、指導性、規律性である。いずれも0.1%で有意であった。
 「3.5.1②」事業所の情意項目の指導に対する評価は、積極性と責任性が大きかったが、指導については従業員と事業所は同じ結果であった。

4 考察
 これまで、人事考課の情意項目について、事業所の従業員に対する評価と従業員自身の自らの情意項目についてどのように評価しているかの二つの面から様々な分析を行ってきた。最後に、これらの分析からどのようなことがいえるのかを、特に実務的面からまとめておくことにしたい。
そこで、この研究の5つの目的に即して順次、述べていくことにする。
① まず、調査対象者について簡単に述べておく。回答事業所数は134社であり、この事
業所数は業種が偏在していたので業種別では建設業、製造業、非製造業の3つ、従業員数規模別でもそうであったので50人以下、51人以上100人以下、101人以上の3つに分けて分析した。業種では建設業12%、製造業42%、非製造業46%、従業員数規模では50人以下の事業所は約半数を占めており、中小企業が多い。
回答していただいた従業員は、学校卒業後、入社3年以内の若年者であり、回答者数は361名であった。年齢は、ほとんど25歳以下である。性別では男性が60%、女性が40%、学歴は高卒者と大卒・院修了者がそれぞれ40%占めていた。これらを基に、以下まとめと考察を述べる。
② 事業所は従業員の働きぶりや成果を評価し、それに応じて昇任、昇格、あるいは昇給
をもって処遇する。そのため、人事考課は人が人を評価することであるから、その評価は可能な限り客観的でなければならない。その評価結果は、従業員のモラールや帰属意識に直接影響を与える。そのため、本調査では、まず、事業所はどのような評価方法を採用しているかを聞くことにした。
それによると、人事考課制度を有する事業所は約63%、有さない事業所は36%であった。また、人事考課制度を有さない事業所の人事評価は、重複回答で聞くと、年功序列が12社、管理者による人物評価が40社、資格によるものが13社、成果だけによるものは10社であった。人事考課制度を導入していないその理由は不明であるが、評価誤差を少なくするためにも、科学的人事考課制度は可及的速やかに導入することが望まれる。ただ、管理者による評価については、管理者が評価の直接的責任者であるので、仕事の成果と能力を客観的に評価できるとすれば、その責任は彼にあるので、このことは一概によくないこととは言えない。管理監督者には、管理責任(委譲責任)、結果責任があるからである。
人事考課は、そのデータをそのまま評価すればよいということではない。評価の直接的責任者は、先に述べたとおり管理監督者にある。彼らが、その評価をどのように理解するかによって、その評価の信頼性が決まるのである。そして最終的評価は、導入している事業所、あるいはそうでない事業所においても管理監督者の判断によってそれは定まる。人事考課を有しない事業所は、差し当たり管理監督者の部下の能力や仕事評価の能力向上を図るべきである。
成果主義導入事業所においては、成果主義が行き過ぎた場合、人間尊重は大きく損なうことになり、いたずらに成果をあおることは逆にモラールの低下現象を来たしかねない。このことは、最近の成果主義導入事業所の抱える共通的問題でもあり、人間尊重と成果とは、両立を目指すべきであるのである。このことは既に、ブレイクとムートンが、管理者は「業績に対する関心」と「人間に対する関心」が共に高い9.9型が最も成果が高いといったが、どのような制度も人間尊重を忘れると制度はいかされない[12]
本研究では、人事考課の評価項目を規律性、協調性、積極性、責任性、指導性の5つ
と、その統合体としての総合評価を付け加え計6つとした。総合評価を加えた理由は、評価項目が全体評価の中でどのような位置付けされるかをみるためである。また、指導性は、本研究で採用した楠田・久保両氏の人事項目にはなかったものである。ここで採用した理由は、指導性は教育と同様に人間関係に深く関係し、したがって情意面にも関係すると理解したこと、さらに共同研究者である事業所の人事担当者の意向にもよる。以下、事業所の考察をする。
a. さて、このような前提から、事業所の若年従業員の情意項目の評価をみると、業種別で
も従業員数別でも責任性が最も高く、この傾向は非製造業が強い。従業員数別でも同様であり、どの規模においても責任性は高い評価であった[13]。低く評価しているのは、規律性と指導性であった。若年者は責任を持って仕事をしているが、その反面、時間を守る、規則を守るといった規律性が低いということである。指導性については、入社3年以内の若年者は、まだまだ仕事を覚える段階であり、それほど必要性がないということであろう。ただ、これについては、後述するが、性別では女性が、特に低かった。
 情意項目間の相関は、協調性と規律性、積極性と協調性、責任性と規律性の3つの組み合わせが、やや強い相関であった。職場のみんなとの協力は規律を守るということであり、また、自ら進んで仕事に励むという積極性は、協調性や責任性を伴うということである。
b. 事業所は様々な方法で企業内教育を行っているが、その成果として情意項目をどの程度
指導しているかをみた。それによると、情意項目の評価と同様に全ての業種と全て規模において、最も指導をしていたのは責任性であり、指導性は最も程度は低かった。このことは、先の責任性の評価と一致する。事業所は、若年者に対して、責任ある仕事をするようにしっかり指導しているから責任性の評価が高いと認識しているのである。事業所は教育訓練の成果を認めているのである。
さらに、事業所を「指導している」事業所と「指導していない」事業所(事業所数が少ないので参考程度になる)に分け、両者間に情意項目の評価がどのように影響しているかをみた。そのため、母平均の差の検定を行うと、責任性以外の5つの項目に有意な差があり、その平均値はいずれも前者が高くなっていた。ここでも、教育訓練の成果が表れていると判断しているのではないか。また、責任性は有意な差がなかったが、このことは、指導している事業所も指導していない事業所も、責任性については、平均値に差があっても統計的には両者とも指導している傾向がある、ということである。これらのことから、事業所にとっては情意項目中、責任性が特に重要であると判断しているのである。
そこで、再度、このことを検討するため、指導上、情意項目間に相関関係があるかどうかをみることにした。それによると、協調性と規律性、積極性と協調性、指導性と責任性は、特に関係が深かったのである。このことは「a」で述べたことと同じ結果であった。また、責任性は、他者を指導する、育成するということと相互に関係していたのである。責任性は、自らの仕事を全うすると同時に、そのことを他者に教える、ということと深く関係するのではなかろうか。指導性は、職業生活上、重い役割といえよう。
c. また、事業所の指導程度と情意項目の評価の関係を相関係数によってみることにした。
それによると、規律性と規律性、協調性と協調性、積極性と積極性が高くなっていたのである。同じ項目同士に高い相関があったといえる。規律性の指導程度が高ければ、規律性の評価が高くなる、ということである。
③ 次に若年従業員の情意項目の評価を、事業所と比較しながら考察する。
a. 業種別、従業員数規模にみても平均値は協調性が最も高くなっていた。事業所はどの業
種も従業員数規模においても責任性が最も高かったが、ここでは異なっている。若年者は、みんなと協力しながら仕事をしている、と評価していたのに対し、事業所は責任を持って仕事に励んでいると評価しているのである。一元配置分散分析と多重比較においては、50人以下の事業所がこの傾向が強かった。
 なお、この調査では、参考までに、事業所が若年従業員に対して行う情意評価を、若年従業員がそれをどのように評価しているかも質問した。表14は情意項目の自己評価であったが、表28では、業種別の指導性(2.58)の一つだけが高くなっていた。言い換えれば、単なる平均値の比較ではあるが、事業所は若年者を低く評価していたと考えていたのである。また、業種別でも従業員数別でも、協調性を高く評価してもらえていたと考えていたのである。責任性ではないのである。
     
b. 性別では特徴的な傾向を示していた。平均値を比べると、女性は男性に比べ、積極性と
指導性以外はどの項目も高かったということである。男性も女性も協調性が最も高く、次いで規律性であったが、事業所で評価の高かった責任性はいずれも3番目であった。平均値の検定においては、指導性だけに有意な差があった。男性も女性も他の項目に比べて最も低い平均値であったが、中でも女性の指導性は全ての項目の評価で一番低くなっていた。女性は、積極性や指導性がないけれども、職場のみんなと協力しながら仕事をしている、と判断し、そのために協調性を最も重要視しているのであろう。学歴別では、高卒、専門卒、大卒・院修了者がいずれも協調性が高かったが、高専卒は責任性が、短大卒は規律性が高くなっていた。指導性はいずれも最も低くなっていた。このことは、事業所評価と同じである。
c. 回答者を「指導を受けている」者と「指導を受けていない」者に分類し、平均値の差を
検定することにした。規律性では、後者が高いが、前者は全てにおいて高くなっている。責任性は「指導を受けている」者が最も高いが、検定では有意な差はなかった。指導の程度は、統計的には変わらないということである。
d. 次に、情意項目間の指導の相関を見ておく。5つの項目間の組み合わせは、同じものを
除き10個であり、総合評価は5つであるので全部で15個である。やや強い相関があるのは14個(表20)であり、事業所は11個(表8)であった。また、従業員の相関係数は、指導性と積極性、指導性と責任性、総合評価と指導性の3つが事業所よりも低く、他の項目は高くなっていた。従業員は、指導を事業所よりもより多く受けていると理解しているのであろう。
 そこで指導程度と情意項目の相関をみておく。表21にあるように、若年者の受けている指導程度と情意項目の相関は全ての組み合わせで事業所よりも低かった。このことは重要である。事業所は若年従業員の情意項目の向上に力を入れているのであるが、若年従業員がそれを感じる程度は事業所より高く、また、両者とも責任性の指導を高く評価していたのである。にもかかわらず、その成果としての情意項目の評価は、全てにおいて事業所より低い評価であったのである。このことは事業所の指導が、空回りしている可能性もあるのではないかと考えられる。
e.最後に、事業所の5つの情意項目のうち、総合評価にどの程度貢献しているかをベータ係数によって検討した。これによると、事業所の情意項目では責任性、指導程度は積極性、若年従業員の情意項目は規律性、受けている指導は積極性であった。
 
 以上、このような結果から、地域中小事業所で働く若年従業員の働く姿が見えてくる。事業所評価では、若年従業員は責任を持って仕事に励んでいると思っているのであるが、一方、彼らは、職場で規律を尊重し、みんなと協力しながら仕事に励んでいると考えているということである。前者ではコツコツ仕事に励み(このことから他者と連携してよりも、むしろ一人で)、後者ではみんなと協力しているという姿である。少なくとも、組織人としての有り様を見せている。ここに、事業所と若年従業員との間にある、働き振りの見方に対するギャップが存在する。
また、事業所は指導の成果を高く、若年者はそれを低く受け止めていたのである。若年者は、事業所の情意に対する指導や教育訓練と距離感もっているのではないかと考えられる。ここにも第2のギャップが存在する。したがって、そのことを協調性の高さによって、その距離感を少なくし真の姿を見えなくしている、のではなかろうか。もしそうなら、若年者はここでも組織人を「あえて」顕現させているのである。キャリア開発は「働き振り」と「指導」「教育訓練」の一致度の向上によって促進されるが、今回の調査ではこの点にやや問題がみられることになった。
さらに女性は、積極性と指導性の二つが男性よりも低かった。その反面、協調性が高くなっていた。管理者育成には、指導性の指導が不可欠である。したがって、入社3年以内で、既に多くの女性は管理者候補ではなくなる傾向があるのかも知れないのである。女性の管理者育成が声高に叫ばれている今日、事業所は、早期のうちから女性の指導力育成に尽力すべきであろう。
 最後に、このことを人事考課の観点からどう理解するかということである。まず第一点は、人事考課の評価が、能力開発の出発点ということであり、両者は因となり果となる。そのため、情意項目の指導は、職務能力の向上を図る場合と同様に、現在どのような問題があるかを正確に把握することが必要になる。このことは、キャリア開発の第一歩でもある。その場合、楠田・久保両氏が指摘するように、性格改善ではなく、仕事に必要な能力としての情意を育成するといことである。このことにより、上の第一のギャップは少なくなる。特に責任性と協調性との関係を明らかにすることである。
第2は、指導上のギャップと自己評価と事業所評価とのギャップである。このことは第一の点とも符合する。すなわち、指導の成果としての情意評価が、互いに食い違っては真の評価にならないし、人事考課が公開でなければ不審感の醸成につながりかねない。したがって、公開が望まれるが、そうでなければ、上司と部下の問題点の共有が必要ではないかと考える。この公式の場は、目標管理体制があるなら、目標設定の場が適している。
また、指導は、成果が顕在化されてもされなくてもその評価は難しいものである。ここの点において、冒頭で述べた教育訓練の是非が問われるのである。指導や教育訓練は、企業や従業員の成長の根源とみるならば、測定可能なものは客観的に評価し、困難なものは(例えば、今回の情意項目)当該企業の価値判断による。この価値判断がその企業の特徴を決定するのである。
(了)



[1] 淡路圓治郎著『技能養成』千倉書房版、昭和15年8月15日発行、6ページ
[2] フレデリック・ハーズバーグ著、北野利信訳『仕事と人間性、動機付け―衛生理論の新展開』東洋経済新報社、昭和49年2月5日、第8刷、86ページ参照のこと
[3] 楠田 丘、久保淳志著『人事考課―これからの設計/活用の仕方』経林書房、1988年6月20日、19版発行、47~49ページ

[4] 楠田 丘・阿部淳志著『前掲書』52~53ページ
[5] 人事管理研究会監修、梶原 豊、菊野一雄、笹島芳雄、田中久夫編著『人事管理実務』産能大学出版部、平成15年4月10日、初版1刷、143~144ページ
[6] 平成5年に始まった円高不況に伴う雇用不安から、

[7] 石村貞夫著『SPESSによる分散分析と多重比較の手順』東京図書、2004年6月10日、第2版第4刷発行、23ページ
[8] 菅 民郎著『新版・すべてがわかるアンケートの分析』現代数学社、1998年11月12日、初版、65ぺージ
[9] 管 民郎著『前掲書』65ページ
[10] 菅 民郎著『前掲書』65ぺージ
[11] この判断基準は、菅 民郎著『前掲書』(65ページ)に「エスミ(本書で扱っている統計手法のEXCELアドインソフトを開発している会社である)では次のように決めていますが」と記載されているものを用いたものである。石村 貞夫著『統計解析のはなし』(東京図書2002年4月10日、第23版、53ページ)、には0~0.2はほとんど相関がない、0.2~0.4はやや相関がある、0.4~0.7はかなり相関がある、0.7~1.0は強い相関がある、としているが、この場合は判断基準の範囲が広い。そのため、実務的に論点を明確にするため、判断基準の幅の狭い前者を採用した。
[12] ロバート.R.ブレイク、ジェーン.S.ムートン、田中敏夫、小宮山澄子訳『新・期待される管理者像』産業能率大学出版部、昭和57年1月20日、7版発行、20~21ページ
[13] この点については興味深い調査がある。財団法人生命保険文化センターが2002年に行った「生活者の価値観に関する調査」で、「『責任を負うことはできるだけ避けたい』と感じる者の割合の推移」がある。16~19歳では1985年は19.0%、1991年は16.5%、1996年は26.6%、2001年は27.4%、20代では同様に12.6%、11.7%、17.6%であり1991年より2001年まで増加している。なお、「感じる者の割合」とは、選択肢「まったくそう思う」と「そう思う」の合計である。(厚生労働省編『平成17年度版労働経済白書』300ページ)
 本研究では、全ての項目に同じように5点を配分している。しかし、職務評価(job evaluation)では、責任性の外、精神的努力、獲得しているスキルや知識、身体的努力(条件)、作業条件などに重要度に応じて予め点数を配分して、その中で評価する方法もある(Shaun Tyson and Alfred York, Essential of HRM, Butterworth‐Heinemann, p.190を参照のこと。また、次の書物も同じような考え方をとっている。John Bratton and Jeffrey Gold, Human Resource Management-Theory and Practice,Macmillan,1994,
p.206)。